コラム

2024.04.26

津波がきます、その時、どう考動しますか?

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ありんくりんニュース

4月3日午前8時58分(日本時間)、台湾東部沖深さ23キロを震源とする海底でマグニチュード7.7の大きな地震が発生しました。地震発生を知らせるアラームが携帯電話で一斉に鳴り始め、数分後の午前9時1分、気象庁は沖縄本島地方、宮古島・八重山地方に最大3mの津波が予測される津波警報を発令しました。県内で津波警報が発令されたのは2011年に発生した東日本大震災時以来で、避難経路における交通渋滞の発生をはじめ様々な課題も浮き彫りになりました。

今回のニュースは、津波について知り身を守るための備えについて改めて考えてみたいと思います。

津波が発生した場所

今回の台湾地震は、震源地付近の断層面が両側から圧力を受け地盤が
押し上げられ津波が発生しやすい「逆断層型」と呼ばれるものでした。今年
元旦に発生した能登半島地震も同じタイプでした。

世界には14~15のプレートが存在しているといわれています。日本列島は、その内の4つのプレート(北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレート)上に位置し、その地殻変動による地震や津波、火山活動
による自然災害が多発する世界有数の災害大国ですが、お隣の台湾周辺の地下構造も複雑です。静岡大の石川有三客員教授によると、台湾周辺の地下構造は、ユーラシアプレートとフィリピンプレートがねじれるように沈み込む複雑な地下構造だと説明しています。

地震津波の特性

津波は地震、火山噴火、山体崩壊、隕石落下などで発生します。ここでは、地震によって発生する津波(地震津波)に焦点を絞りご説明します。

地震津波は、比較的浅い(0~60㎞)海底下で地震が発生し、海底の隆起・沈降で発生した海水の波が海面で上下することで発生します。地震の揺れが小さくても津波は押し寄せます。実際に、1896年明治三陸地震津波は震度2~3の弱い地震でしたが、津波の高さは約30m(7~8階建てのビルに相当)に達し、約22,000人が犠牲となりました。 また、はるか海の彼方で発生した地震による遠地津波(1960年チリ地震津波:地震規模M9.5)では22時間後に日本沿岸を襲い、全国で142人の死者が出ました。そのうち沖縄県では、本島中北部を中心に高いところでは4.73mの津波が押し寄せ、屋我地大橋や大浦橋が全壊・決壊し、3人の犠牲者が出ました。

沖縄周辺の地震・津波リスク

2022年3月25日、政府の地震調査委員会は南西諸島周辺や与那国島周辺で起きる地震の規模や発生確率の長期評価を18年ぶりに見直し公表しました。1919年以降、南西諸島周辺ではM7.0~7.5規模の地震が4回、与那国島周辺では12回発生しています。そして、その与那国島周辺の今後30年以内にM7.0~7.5程度の地震が発生する確率は90%超と見込まれています。ちなみに台湾東海岸エリアでは、2018年にM6.7、2022年にM7.3、そして今月のM7.7と大規模地震が頻発しています。

琉球大学地震学研究室(中村衛教授)がまとめた「沖縄の歴史地震」の資料によると、1625年から1966年の341年間に沖縄県内で観測されたと思われる津波は約10回あり、そのうち明和の大地震によって引き起こされた八重山地震津波は推定8.5mとされ、死者12,000人に及びました。

台湾は、日本最西端の与那国島からわずか111㎞の距離に位置しています。その台湾で起きた地震・津波は沖縄でも「もしも」ではなく「いつか起きる」と認識しておく必要があると考えたほうがよいでしょう。

海底地震  ➤ 津波 ➤  逃げろ 「津波てんでんこ」の教え

狭い湾が複雑に入り組み美しいリアス式海岸で有名な三陸沿岸では、これまで幾度となく大津波に見舞われてきました。東日本大震災では、津波は高いところで10~15mにも達する脅威で19,000人近くの死者・行方不明者を出しました。この地域には「津波てんでんこ」という言い伝えがあり、東日本大震災後たびたびクローズアップされてきました。この言葉の意味は、「津波がおきたら、他の人のことは気にせず、てんでばらばらに逃げろ、そうしないと家族や地域が全滅してしまう」という教訓で、自分の命は自分で守るという「自助」と、逃げる行動を見る人が自分たちも逃げなければという気づきを与える「共助」の意味も含まれています。この教訓は、津波で家族の絆がある故助けるために戻って犠牲になった過去の悲劇的な歴史が繰り返されたことから命をまもるために生まれた教えなのです。実際、釜石東中学校と鵜住居(うのすまい)小学校の生徒570人は、地元住民に避難誘導されながら海抜2mから海抜44mの高台までの約1.6㎞の道のりを徒歩で無事避難できました。これは日常から地域ぐるみの防災訓練などの積み重ねがあったからで、決して奇跡だけではありませんでした。

避難方法の再確認

今回の津波警報は一日の活動が始まる時間帯に発令されました。早く逃げたい、車も守りたい、パニックになり無意識に車を走らせた、など様々な理由から多くの人が高台を目指し車で避難したため、県内各地の道路で交通渋滞となり全く進まぬ状況に陥りました。やむを得ず避難手段が車であった支援の必要な高齢者、体が不自由な方、または持病もちの方々の通行の妨げとなりました。もしこの間に津波が押し寄せてきたら、海岸や海と通じる河川・用水路沿いで車内にいれば一気に波にのまれ生存が危ぶまれます。能登半島地震では地震発生と同時に津波が押し寄せ、高齢者を乗せた車が波に追われながら高台に向かって駆け上がる映像がニュースで流れました。幸い道路は閑散としており、間一髪で難を逃れました。

いつどこで災害に遭遇するかわかりません。自宅にいない可能性もあります。今回の津波は大事に至りませんでしたが、津波が真夜中や台風など悪天候と重なっていたら周辺の状況を把握することは日中よりかなり困難になると想定されます。

近年、災害時の情報入手、避難所マップ、安否確認、防災グッズや食品ストック管理ができる防災アプリが増えています。これらの多くは無料でダウンロードでき、多言語設定可能なものもあります。引っ越し、出張、進学、国内や海外からの旅行者など見知らぬ土地にいる方でも活用できるデジタルツールです。防災アプリを評価しているサイトがありましたので参考までに掲載します。ご自身やご家族のニーズに合ったアプリを選定し、平常時からテスト使用することをお勧めします。

【2024年】防災アプリおすすめTOP10 地震速報や災害情報をリアルタイムで | iPhone/Androidアプリ – Appliv (app-liv.jp)

 

まとめ

私たちの住む沖縄では、沖縄戦を生き抜いた先人たちが伝えてきた「命どぅ宝(ぬちどぅたから)何よりも大事なものは命である」という尊い教えがあります。それは津波避難にもあてはまります。津波警報が発令されたときの避難ルートの確認など命を守る行動について、個人として、家族として、また地域や職場において大規模災害への備えを振り返り、防災マニュアルや避難訓練などからの課題点を見直し、次回へ生かす準備を改めて考えてみる良い機会ではないでしょうか。

宮城 和美


参考文献リスト
沖縄気象台地震火山部 報道発表 令和6年4月3日08時58分頃の台湾付近の地震について
気象庁 発信機構解と断層図 「図2 発震機構解と働く力の向き、断層の動きの図」 、津波から身を守るために
沖縄タイムス 台湾地震関連記事2024年4月4日、5日、8日、10日、11日、16日
Weblio辞書 「津波」の国際語化
与那国町役場ホームページ
日本防災士機構 防災士教本
NHK災害列島命を守る情報サイト “小さい地震”の大津波 明治三陸津波の教訓を語り継ぐ 東日本大震災
琉球大学地震研究室 「沖縄の歴史地震」
沖縄タイムス+プラス 2020年5月24日 避難経路を再点検/チリ地震津波で被害 名護市大浦/防災マップ作り備え
内閣府防災情報ページ 東日本大震災における都道府県別の人的被害
防災新聞 「てんでんこ」とは何か?共倒れせずに未来へ命をつなぐための言葉
読売新聞オンライン [東日本大震災10年 秘話]<5>避難誘導 釜石の奇跡、共助のリレー
気象庁地震火山部 報道発表 「令和6年能登半島地震」について(第3報)
【2024年】防災アプリおすすめTOP10 地震速報や災害情報をリアルタイムで